2020-07-19

映画『WAVES』を観た感想ータイラーへの感情移入について


https://a24films.com/films/waves

「プレイリストムービー」として話題の『WAVES』を観てきました。個人的にA24作品は『Room』、『Moon light』、『The Florida Project』、『Midsommar』に続き5作目。やっぱ、色彩や音楽の使い方やすごく上手いなーと思う反面、「一生に一度の傑作」と言うほどかな……という感想でした。

ただ、グッと引き込まれた要素があるのも事実。今回は賛否の論点の一つにもなっている(と思う)、兄タイラーへの感情移入についてフォーカスして感想を書いてみます。

もちろんネタバレはあり!




タイラーへの感情移入

この映画の賛否が分かれる部分の一つとして、前半部分の主人公である兄タイラーにどれだけ共感できるか、感情移入できるか、というポイントがあると思います。レスリング選手としての選手生命を左右する怪我に加えて、父親からの抑圧、そして高校生カップルである恋人の妊娠。そういった心理的負担の要素があったとしても、激昂して振られたあげく、ドラッグや酒に逃げ、ストーキングして殺害という末路は、多くの人に「まったく感情移入できないクソ野郎」と罵られてもしょうがないとは思います。

では自分はどうだったか。この物語における彼の罪を擁護する気はありませんが、感情移入はできました。それはそもそも自分が最近、世間的にバッシングの対象になる事件、不倫や薬物、虐待、殺人なんかについて、「自分もそっち側になりうる」という視点で見てしまう傾向があるからかもしれませんが(これについてはまたいつか別に書きたい)。

薬物に逃げたことや、アレクシスを殺めてしまったことにはそう簡単に「わかる」と言うことはできません。ただ、彼女から別れを告げられてしまうシーンはかなり心にずっしり来ました。自分から「ごめん」と謝まったはずなのに、産むことにしたと告げる彼女に対してまた激昂してしまう。客観的に見れば明らかにNGな選択肢を選び、状況が悪化していきます。

「話せばわかる」理論の虚しさ

彼は「メールでする話じゃない」「会って話そう」とアレクシスを説得するしようとしますが、こういう場合の「話せばわかる」理論って、「話し合えばお前が折れて、俺に合意する」っていうことで、自分が折れる可能性って想定されてないんですよね。

別れ話においては男性がこっち側に置かれることが多いような気はしますが、性別問わず「話せばわかる」と思ってしまっている自分には思い当たる節がある人は少なくないんじゃないでしょうか(ということで自分の共感ポイントはここ)。

このシーンでは彼女はもうタイラーの説得に対し完全シャットアウトなわけですが、「いつも私の話を聞いてない」という台詞から、彼らカップルの関係性においてそういったやりとりがそれまでもずっと続いてきたんだろうなという想像がつきます。もう絶対に覆らないだろうという硬い決意が、当然の帰結だとしてもなかなかキツい。この終わりを迎えた瞬間に、タイラーは我が身を振り返ってその事実を受け入れることができれば、復縁は難しいとしてもああいう結末はなかったかもしれません。

描かれていない彼らの人生

ではどうしてそこで堕ちていく自分にストップをかけられなかったかと言えば、怪我や家庭環境ゆえということになるのですが、それでも殺しちゃアカンやろというのが大方の意見。確かに不運が重なったとはいえそこまで特別な境遇ではないですし、フィクションだとすればもっともっと悲惨な境遇というものはありふれているわけで。

ただ、彼らがこの『WAVES』という物語の中に生きる人間だとすれば、もちろんここに描かれているストーリーというのはほんの僅かな断片でしかありません(そしてどちらかと言えばこの映画自体、あまり多くを語ったり描いたりするタイプの映画ではない)。タイラーにしてもここまで生きてきた十数年間があり、ここから何十年も生きていくことになるはずです。

例えば、厳格な父親からの厳しい教育、抑圧はタイラーが高校生になって急に始まったわけではなく、小さな子供の頃から続いてきたものでしょう。逮捕直前に継母に放った罵詈雑言はあまりにも酷いもので、そもそも彼の本心ですらなかったかもしれませんが、そこに至る複雑な家庭環境はこちら側からは測り知ることができません。

「あの程度で殺人を」、「殺人犯とその家族を美化している」という批判は間違ってはいないとは思いますが、彼らの人生に思いを馳せれば少し違った見え方をしてくるのではないかなと思います。

まとめ

というわけで兄タイラーへの感情移入について感想を書きましたが、言いたいことはまだいろいろあります。まだまだ自分の音楽への知見は浅いな〜とか、やっぱ日本のメインビジュアルはどうなんじゃいとか、A24作品は本当に宣伝が上手い(過大だ)なァ〜とか……。

あと一つ言うとすれば、タイラー以外の家族3人に寄り添ってみると、彼らはもっと堕ちていくことはできたのにそれぞれがよく耐えたな〜と。それにはルークがめちゃくちゃいい仕事しましたね(もちろんエミリーも頑張った)。正直ルーク絡みでもう一段落とされるんじゃないかとひやひやしてました。

すでにいろんな視点で賛否が溢れてる映画なので、いろんな感想や考察を読みたいなーと思ってます。では!

映画『1917』を観た感想!





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