2018-05-13

アークティック・モンキーズは前進し続けることで、常に完成している-新譜 『Tranquility Base Hotel & Casino 』を聴いて


「アクモン終わったな」。2014年の夏、幕張。初めてのフェス。ヘッドライナーのアークティック・モンキーズの興奮冷めやらぬ自分をよそにどこからか聴こえてきたそんな言葉に、「いろんな感じ方があるんだなあ」と思った。初期に比べ『AM』の時点で、すでに渋みに渋みを増して、完熟しきったかのように思われていたアークティック・モンキーズ。そんな彼らが5年ぶりにリリースした新譜は、予想通りの渋い路線ではあったけれど、予想をさらに超えた妖艶さだった。

正直、自分がアークティック・モンキーズに魅了されたのは『AM』が出た後だ。ただ、多くのアークティックファンがそうであるように自分も「I Bet You Look Good On The Dance Floor」や「Brianstorm」に踊らされるがままにハマっていった人間なので、初期のダンスロックをかき鳴らすアークティックに囚われて、「次こそは」と新作が出るたびにリバイバルを期待するファンの気持ちもわかる。だから、今回の『Tranquility Base Hotel & Casino』について絶賛しているファンについてもそんな気持ちが皆無ではないだろうと同時に思う。

実際、自分も仕事中にSpotifyでアルバムを開いて一周目では、「やっぱりこう来たか」と思うと同時に、後半に進むにつれて「も、もう少し、ギターを……ギターをくれ……」という気持ちになっていたのは事実。前作のラストトラック「I Wanna Be Yours」の流れをそのまま組んで、さらに深く深く曲を作りこみ、それをアルバム一作をまるまる貫きとおしたような今作。『AM』の路線も好きだったし、悪くはないけど、アルバム通して何回も聴き込むアルバムではないかな……と少し思った。でも、家に帰ってイヤホンを差し込んでもう改めて聴きなおすと、また印象が変わった。

アイフォンのスピーカーだと、Spotifyのイコライザで低音重視にしてもベースとかドラムの音ってたかが知れている。だから、イヤホンで聴いて初めて強烈に主張してくるそのリズム、特に「Tranquility Base Hotel & Casino」や「Four Out Of Five」のベースラインに乗せられない訳にはいかなかった。自然と揺れ動く体。そして、そこに今作の特徴であるピアノの音とアレックスのボーカルが絶妙にかみ合ってくる。即、前言撤回で「これはアルバム通して聴けるやつだ」と。すでにヘビロテで何周したかもわからない。

そして、ここからが今朝気づいたところ。Spotifyでアルバムを流してラストトラックが終わると、自動でそのアーティストのラジオプレイリストに突入するんだけど、ここで突然「Brianstorm」のイントロのドラムがドコドコ鳴り出したりする。そしてその瞬間、自分はアークティックのライブ会場、キラーチューンが始まって一斉に歓声が上がる瞬間にトリップさせられる。

もちろん、そんなわけはない。もちろん、過去の曲がめちゃくちゃにかっこいいのも知っている。だけど、「あれ!? こんなにすごい曲だったっけ!?」と。そう感じて、ほかのアルバム、ほかの曲も改めて聞き直す。「I Bet You Look Good On The Dance Floor」も「Do Me a Favour」も「Crying Lightning」、「Don’t Sit Down ‘Cause I’ve Moved Your Chair」、そして「Do I Wanna Know?」まで凄みを増しているような気がする。またまた、そんなわけはない。ライブパフォーマンスならまだしも、過去に録音した音源でそんなことがあるわけがない。そう思いながら『Tranquility Base Hotel & Casino』と過去作を何度も繰り返し往復しながら聴きなおす。そして、自分なりに出した答えが「アークティック・モンキーズは前進し続けることで、常に完成している」だ。『Tranquility Base Hotel & Casino』によって、過去5作もまた改めて完成したのだ。

アークティックの音楽性の変化について、彼らが常に新しい自分たちの音楽を模索しているのは明らかだろう。でも、それは過去を否定するものではない。それは、サマーソニック2014で初めて彼らのライブを観たときにも感じたことでもある。『Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not』から『AM』まで、随分とスタイルの変わった自分たちの曲をよくもここまで新旧織り交ぜた形で、それも何の違和感も覚えさせずに怒涛の流れで披露できるものだな、と。

自分はもし、今回の『Tranquility Base Hotel & Casino』が「過去最高傑作」と位置付けれらたとしても、それで過去作が2番手とか3番手に落ちるというわけではないと思う。今作が出来上がったことで、これまでのアークティック・モンキーズも含めて、新たなアークティック・モンキーズが完成するのではないか。そして、それは今回に限ったことではなく、彼らは新作を出すたびに常にそうあり続けてきたのではないか。そういう考えに至った。自分は音楽通ではないし、楽器を大して弾けるわけでもない。だから、彼らの音楽をうまく言葉で批評することはできない。だけど、進化をしつつも、彼らの根幹には常に一貫した精神があって、それがアークティック・モンキーズをアークティック・モンキーズたらしめているのではないかと感じる。

 

それにしても、リーゼントからオールバックを経て髭ピアニストという新境地に至ってしまったアレックス……。まあ、髭に関してはアルバムを聴いて、「これなら髭もなっとく」と思ったけどさ。笑

まあ、偉そうに「アークティック・モンキーズは前進し続けることで、常に完成している」なんて言ったけど、アレックスは「(顔をしかめながら)なかにはこう思ってしまうような歌詞もあってね。『この時は何を考えていたんだろう。これは今回はぶいたほうがいいかもな』ってね」と言っているわけで、ライブでもバリバリ新譜からばっかりのセトリってこともあるかもしれない。だけど、今作を聴いて自分としてはアークティック・モンキーズというバンドがさらに好きになりました、というお話でした。

 

 

 





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